どうも村田です
一九三七年、岩畔豪雄
【いわくろひでお】中佐
（陸士三〇期）が
「諜報謀略の科学化」
という意見書を陸軍参謀本部に
提出したのだ。
「諜報謀略の科学化」という
意見書は、
「科学的・合理的な諜報謀略が
できる体制を整備せよ」
と訴える内容のものだったのだ。
NPO 法人インテリジェンス
研究所の第一六回諜報研究会で
「ヤマ機関の研究」と題する
木村洋氏の講演用資料
によれば、岩畔中佐の意見書が
提出された経緯はこうなのだ。
〈一九三五年八月一日、
ソ連陸軍とポーランド陸軍に
隊付勤務後に帰国したロシア
アナリスト・
土居明夫少佐
(陸士二九期)が参謀本部
欧米課ロシア班長となった。
ソ連ではＧＰＵ の監視を
かいくぐって外国人には禁止
されていた中央アジア旅行を
敢行し、
ポーランドでは対ソ諜報と
対ソ防諜を学んだ土居は、
参謀本部に防諜・諜報の
教育研究機関を設置しよう
という案を出したが、
陸軍省軍事課に
「日本は法治国家だから
そんな野蛮国の真似はできない」
などと反対された。
陸軍省兵務課の岩畔豪雄少佐は、
制度設計は陸軍省の仕事であり、
予算も捻出しやすいと主張して、
土居案を一時的に引取った。
諜報・防諜の教育研究機関の
設立を思い立ったのは土居が
最初である。
土居の提案は実らなかったが，
兵務課が陸軍省兵務局
（一九三六年八月一日新設）
に移管したこともあり、
岩畔は初代兵務局長となった
上官の阿南惟幾少将
（陸士一八期、終戦時の陸軍大臣）
を、異なるアプローチで説得した〉
岩畔中佐は阿南少将の説得に
成功し、幾多の問題を乗り越えて、
「阿南少将の発議」という形で
諜報・防諜の教育研究機関の
設立にまで漕ぎ着けたのであったのだ。
岩畔豪雄中佐の意見書
「諜報謀略の科学化」は、
「阿南少将の発議」で、
同年の暮、陸軍省軍事課長だった
田中新一大佐によって実行に
移されることになったのだ。
陸軍省が中心となり、
諜報・謀略要員の養成機関を
創設することを決め、
岩畔豪雄中佐、秋草俊中佐
(陸士二六期)、福本亀治中佐
(陸士三〇期)の三人を
創設委員に任命したのだ。
陸軍には、軍の行政（軍政）
を司る陸軍省と戦争（軍令）
を司る参謀本部があったが、
情報軽視の風潮のためか、
本来やるべき参謀本部は
諜報・謀略の企画には冷淡
だったため、陸軍省の所轄に
なったのだ。
一九三八年七月、
九段下牛ヶ淵にあった
愛国婦人会本部別館を借りて、
「後方勤務要員養成所」
（陸軍中野学校の前身）
が開設されたのだ。
所長には秋草中佐が
任命されたのだ。
第一期生としては
陸軍士官学校の卒業生では
なく、一般の大学や
高等専門卒業の一八名が
選抜され、
一九三八年七月から
翌年八月までの一年間、後に
詳しく述べるような特殊な
教育を受けたのだ。
一九三九年四月には、
中野囲町にあった
旧中野電信隊の跡地に移転し、
同年一一月には第二期生
として乙種
（長期四〇名、短期六九名）と
丙種（五〇名の下士官学生）が
入校したのだ。
一九四〇年八月には
「陸軍中野学校令」が制定され、
名称が「陸軍中野学校」に改名
されたのだ。
一九四一年一〇月、
中野学校の所轄は陸軍省から
参謀本部に移管されるのだ
一九四四年八月の戦争末期
には、静岡県の二俣町に
「二俣分教場」（分校）
を開設。
ここでの教育は、諜報や謀
略よりも遊撃戦、つまり
ゲリラ戦の幹部要員の養成に
重点が置かれたのだ。
ゲリラ戦とは何か。
軍隊（正規軍と呼ばれる）では、
小隊長や中隊長が
「あの丘の敵を攻撃するぞ！」
と命令を発し、
正々堂々と「正規戦」で戦うのだ。
一方で、遊撃戦、つまり
ゲリラ戦は、隠密に潜入し、
相手の急所＝アキレス腱を
叩くという戦法なのだ。
大きな組織や武器を持って
いなくても、相手を苦しめる
ことができるのだ。
このゲリラ戦を得意としたのが、
南米の革命家エルネスト・
チェ・ゲバラなのだ。
また、中国共産党の毛沢東は、
日本軍との戦いで
「ヒット・エンド・ラン」
という戦法を多用したのだ。
これは、日本軍が押してくれば
逃げて、下がったら追って行く
というものなのだ
毛沢東の戦略は
日本は小さな島国なので
長期間戦う能力はなく、
広大な中国を占領することも
できない。だから、決して
正面対決はせず、
ゲリラ戦で日本軍を翻弄し、
時間を稼ぎ、米国を参戦させる
ことにより日本を屈服させ、
その後「国共合作」を破棄して、
蒋介石を打倒し、共産国家を
樹立する――
というものだったのだ。
一九四五年三月、東京での
空襲が激しくなったこともあり、
中野学校は群馬県の富岡に
疎開したのだ。
なぜ富岡だったかと言うと、
最終的に本土決戦になったとき、
長野県の松代に天皇陛下は
お移りいただき、
山中に掘られた地下坑道内
に日本政府の中枢機能を移転
する計画があったからなのだ。
富岡は、松代に至る入り口を
守る位置（要点）にあり、
まさに最後の砦だったのだ。
陸軍中野学校はこのような
経緯を辿ったが、最終的には
約八年間で約二五〇〇人の
中野学校卒業生を輩出し、
終焉を迎えたのだ
続きは次回だ
今日はこのくらいにしといたる